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【査読付き論文誌に掲載】VRChatでのアルマ望遠鏡バーチャルツアーが、全く新しい科学コミュニケーションとなる可能性を示唆

ss_210428_2.png VRChatに作られたバーチャルアルマ望遠鏡(提供:天文仮想研究所 S_朝霧さん)

 天文仮想研究所の開催したイベントにより、VRChatはパンデミック中やパンデミック後の科学コミュニケーションの強力なツールとなる可能性が示唆されました。国立天文台の平松正顕(ひらまつまさあき)講師や天文仮想研究所のS_朝霧さんらが研究によって明らかにしました。この研究結果は、国際天文学連合と国立天文台が共同で発行する”Communicating Astronomy with the Public”誌に掲載されました。

 天文台は最先端の天文学の知見が生み出される研究施設であり、こうした施設を訪問し専門家の説明を聞くことは、市民と天文学の距離を近づけるとともに天文学への理解を促し成果を社会へ還元するなど、市民と研究者の双方にとって重要です。しかしながら、天文台は光害や電波障害を避けるために遠隔地に設置されているなど、訪問にはいくつもの障害があります。また、2019年末より拡大したCOVID-19のパンデミックにより、そうした施設への訪問はさらに困難となりました。
 その代替として、いろいろな天文台でオンラインバーチャルツアーが行われています。これらは、主にYouTubeやFacebookを通じたリアルタイムライブとテキストチャットによる双方向コミュニケーション補償により展開されてきました。しかし、この方法では参加者が見ているのはあくまでも四角形の平面ウィンドウ内の映像であり、得られる臨場感は現地訪問で得られるものには遠く及びません。
 今回のイベントでは、チリに建設されたアルマ望遠鏡をVRChat内に再現し、平松講師の解説とともに仮想的に訪問しました。参加者へのアンケート結果から、VR技術を使うことで従来のバーチャルツアー法では得られなかった臨場感を参加者が獲得できたことが明らかになりました。これは、パンデミック下であってもVR技術を活用することで効果的な研究現場の訪問体験企画を展開できることを示しています。

 VRChatは、3DCG空間内でアバターを用いて他のユーザーと音声やジェスチャーで双方向にコミュニケーションを取ることができるソーシャルVRプラットフォームです。VRChatの特徴の一つは、参加者が一か所に集まったりデバイスを共有したりする必要が無く、自宅などからインターネット経由で接続できることです。この特徴は、パンデミック下でイベントを開催する際のメリットになります。
 また、VRChatでは、ユーザーが様々な「World」を作成し、他のユーザーが訪れることができます。本イベント利用されたバーチャルツアーの会場は、S_朝霧さんによって作成されました。アンケート結果をまとめた論文の筆頭著者である平松講師は、イベント開催当時、国立天文台アルマプロジェクトの教育広報担当を務めていました。平松講師は実際のアルマ望遠鏡現地の環境や設備を熟知しており、空や地面の色、地形、アンテナの詳細な形状などをアドバイスしました。これを受けてS_朝霧さんは、アルマ望遠鏡ワールドの、リアリティを大きく向上させることができました。天文仮想研究所は、このバーチャルツアー以前にも、VRChat内でプラネタリウム、宇宙探査機・宇宙望遠鏡博物館、ロケット発射台などの仮想世界を制作し、定期的にイベントを開催しています。天文仮想研究所のS_朝霧さんの高いモデリングスキルと、アルマ望遠鏡専門家の平松講師との連携がツアー成功の重要な要素でした。

 本研究は、バーチャルツアー参加者にアンケートを実施することによって行われました。バーチャルツアーは全てVRChat内で行われ、講演会とアルマ望遠鏡ツアーの二部構成でした。参加者は、HMDによるVRモード、PCデスクトップのみによる非VRモード、YouTube配信視聴のいずれかで参加しました。
 参加者は20代以下が約半数を占めており、VRという最先端技術に高い関心を持つ若い世代へのアプローチに適していると言えます。また、告知は天文仮想研究所や国立天文台アルマプロジェクトのソーシャルメディアを中心に行ったため、参加者のほとんどが天文学に興味を持っていましたが、ツアーを経て、既に天文学に興味を持っている参加者の大半はさらに興味を増大させたことがわかりました。
 HMDを使用した参加者では、7割以上が「講師とのコミュニケーションがあった」と答えており、これは没入型環境が自発的なコミュニケーションを容易にしている可能性を示しています。また自由記述の回答では、「高い臨場感」や「講師との距離感が近い」という記述が目立ちました。また、参加者が互いの反応を音声やアバターの動きによって感知することができるのも、VR空間でのバーチャルツアーの特徴です。平松講師も、「実際に現地で案内しているのに非常に近い感覚でバーチャルツアーのガイドができた」とコメントしています。
 これらを総合すると、VR空間で高品質なWorldを構築し、そのWorld内に作られた物体を熟知した専門家をガイドとしたバーチャルツアーを実施することで、実際の現地訪問に近い臨場感を得られたり、対象物やイベントテーマへの関心を増大させたり、参加者同士や専門家とのコミュニケーションを楽しんだりすることができたといえます。パンデミック下という歴史的に見ても特異な時期に、これを克服するために開催されたバーチャルツアーでしたが、結果的にはポストパンデミック期にも通用する新しい科学コミュニケーションの形を提示することになりました。

 この研究成果は、Hiramatsu et al. ”Virtual ALMA Tour in VRChat: A Whole New Experience”として、”Communicating Astronomy with the Public Journal”第30号に、2021年12月2日付で掲載されました。(リンク

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